2025年11月30日
メンタルヘルスケア
心身の不調などで仕事を休職された際、職場に復帰するのが「怖い・気まずい」と感じる方は、数多くいらっしゃいます。
そもそも、なぜ復帰することを「気まずい」と感じてしまうのでしょうか?
本記事では、その心理的背景や気まずさを和らげるための心の持ち方・セルフケア、そして職場で実践できる自分自身の行動などを、公認心理師が詳しく解説していきます。
復職することに気まずさを感じているのは、あなただけではありません。
少しでも安心した状態で職場復帰ができるように、ともに学んでいきましょう。
目次
さて、なぜ多くの方が、復職することに精神的な不安を感じてしまうのでしょうか。
休職後に復帰する際に「怖い・気まずい」と感じる理由の一つに、
社会的つながりと距離を置いたことによる、心理的な負荷があると考えられます。
簡単に言い換えると「自分が休職したことにより、職場に迷惑をかけてしまった」などの思いが出てくることで、復帰に対して漠然と不安な気持ちが沸いてくるのです。
また、その不安な気持ちを持ち続けることにより、次のような二次的な不安を生み出す場合もあります。
また、もう一つの理由として挙げられることとして、
復帰後の職場の人間関係への不安も、関わってくると考えられます。
休職前から職場の中の人間関係で悩んでいた方は、復帰後にまた同じことで苦しまないか不安になるでしょう。
また、元々人間関係に不安のなかった方も、復職後に「周りにどう思われているか気になる」として、新たに悩んでしまうケースもあります。
長く職場を離れることで職場の人との距離感が分からなくなってしまうのは仕方のないことです。また、それを気にしてしまう気持ちも、ごく自然なものだと思います。
では、職場復帰後に想定される状況や周囲の反応は、一体どういったものでしょうか?
ここではその状況を予想して、「気まずい場面」の例をいくつか挙げていきます。
想定される状況を列挙しましたが、いざ自分がその状況に置かれると、気持ちが不安になってしまう場面が多いと思われます。
職場復帰への気まずさを、少しでも解消したい。
そう思っても、気持ちはそう簡単に切り替えられるものではありません。
ここでは、復職前にどうしても抱いてしまう「気まずさ」を和らげる、心の持ち方やセルフケアの方法を紹介していきます。
休職からの復帰直後は、どうしても「迷惑をかけた分、頑張らないと」と思ってしまうものです。
しかし、心身が完全に回復していない段階で以前と同じように動こうとすると、再び疲弊してしまう危険があります。
「はじめは7割の力でOK」と自分に許可を出してあげましょう。
少し余裕を持たせることで、周囲の変化にも落ち着いて対応できるようになりますし、徐々に自信を取り戻すきっかけにもなります。
完璧を目指すより、「長く続けられるペース」を意識することが大切です。
長く職場を離れることで職場の人との距離感が分からなくなってしまうのは仕方のないことです。また、それを気にしてしまう気持ちも、ごく自然なものだと思います。
「自分が弱かったせいで休んだ」「あのときもっと頑張れたのでは」と、自分を責める気持ちが出てくることは自然なことです。
ですが、休職は逃げではなく、心身を整えるために必要な時間です。
しっかりと立ち止まることができたからこそ、今のあなたはまた一歩を踏み出すことができているのです。
「休んだからこそ気づけたこと」「支えてくれた人への感謝」など、前向きな視点で振り返ってみましょう。
自己否定ではなく、自分を労うことから回復の第一歩が始まります。
復職後すぐに大きな成果を出すことは、誰にとっても難しいものです。
「今日はきちんと出社できた」
「同僚に挨拶できた」
「1件の仕事を片づけられた」
そんな小さな一歩こそが、確実な前進です。
小さな達成を丁寧に積み重ねることで、自己肯定感が少しずつ回復し、仕事への安心感が戻っていきます。
できなかったことではなく、できたことに意識を向けてみましょう。
復帰初期は、出社するだけでも大きなエネルギーを使います。
仕事前後の短い時間に、自分が心から落ち着ける儀式のような時間を作ってみましょう。
たとえば、朝は好きな音楽を聴いてから出かける、昼休みに深呼吸を数回する、帰宅後に温かい飲み物をゆっくり味わうなど。
これらの行動が「緊張モード」から「安心モード」へ切り替えるスイッチとなり、心の負担を軽くしてくれます。
無理をせず、自分に合ったほっとできる習慣を大切にしましょう。
気持ちがつらいときや不安が強いときは、一人で抱え込まずに話を聴いてもらうことがとても重要です。
家族や恋人、信頼できる友人や同僚など、安心して話せる相手を見つけておきましょう。
「話す」という行為自体に、気持ちを整理する効果があります。
また、職場の産業カウンセラーや外部の心理カウンセリングを活用するのも有効です。
「話す=弱さ」ではなく、「心のメンテナンス」として自然な行動だと捉えてみてください。
誰かに話すことで、心の重荷が少しずつ軽くなり、前に進むエネルギーを取り戻せることがあります。
先の章で「セルフケア」について学んだところで、次は実践編です。
ここでは、復職前から復職後にかけて、比較的簡単に実践できる職場での行動や人との関わり方を紹介していきます。
「気まずさ」を減らすには、無理に明るく振る舞うことよりも、小さな行動を丁寧に積み重ねていくことが大切です。
復帰をスムーズにするためには、職場に戻る前の「心と環境の準備」が重要です。
完璧に整えようとせず、軽いリハビリのような感覚で取り組んでみましょう。
主治医から許可が出た後、職場の産業医と保健師と相談した上で、以下のようなことができるかもしれません。
ただし、準備のしすぎはかえって不安を強めることもあります。「できる範囲で大丈夫」と自分に言い聞かせ、心の余裕を持つことを何より優先しましょう。
復帰初日は、誰にとっても緊張するものです。
しかし、ここで重要なのは「どんな挨拶をするか」よりも、「どんな姿勢で向き合うか」です。
まずは、短くても丁寧な挨拶を意識しましょう。
「おはようございます」「お久しぶりです」などで十分です。無理に会話を広げようとしなくても構いません。
また、挨拶や会話では、謝罪よりも未来に焦点を当てることを心がけてください。
「休職して申し訳ありませんでした」
ではなく、
「今日からまたよろしくお願いします」
と伝えると、お互いに前向きな空気を作ることができます。
そして、周囲と無理に雑談しようとせず、「少しずつ関係を戻していく」くらいのペースでOKです。
自然な会話のきっかけを作りたい場合は、ちょっとした確認や依頼(例:「この書類の最新版はこれで合っていますか?」など)を自分から投げてみましょう。
それが、自然なコミュニケーションの入口になります。
復職の前後で行われる上司や人事との面談では、「どのように働けるか」を率直に共有することが大切です。
無理をして「もう大丈夫です」と言ってしまうと、後々の負担につながることもあります。
面談前に、
などの準備をしておくと、面談がスムーズになります。
また、面談後は「定期的にフォローアップの機会を設けていただけますか?」とお願いしておくのもおすすめです。
「一度きりの話し合い」で終わらせないことが、安心して働き続けるためのポイントです。
復職後しばらくして少し慣れてきたら、徐々に周囲との関係を取り戻していきましょう。
焦らず、自然体を意識するのが大切です。
そして何より、無理な親密さを求めないこと。
「誰とでも仲良くしなきゃ」と思いすぎると、自分を追い詰めてしまいます。
程よい距離感の中で、自分らしくいられる関係を築いていきましょう。
職場ですから、仕事で必要な関係を築くという考え方で十分です。友達や部活の仲間ではありません。
次に、さまざまなケースを想定した復職プランをご紹介します。
ブランクが大きければ大きいほど、職場復帰することに強い不安を感じることは仕方のないことです。
その気持ちをなくすためにも、前章で挙げたこと(特に①)を出来るところから実践しつつ、復帰前後はあまり無理をせずに、常に自分の心を優しくケアしていきましょう。
前部署に戻りにくいと感じていたり休職前になんらかのトラブルを抱えていた場合は、同じ環境に戻ること自体を考え直す必要があります。
状況によっては復帰前に上司や人事に相談し、配置換えをお願いする方が良いかもしれません。
自ら望んで復帰後に異動した状態からスタートしたい場合も、もちろん事前に上司や人事に相談する必要があります。
原則は休職前の場所に戻ることになっているので、異動できる可能性が少しでも増えるように、「なぜ前部署から異動をしたいのか」を自身の現状とともに丁寧かつ明確に伝えてみましょう。
この場合、そもそも、今が復職の「ベストタイミング」なのでしょうか?
かかりつけの主治医や産業医に今一度相談し、復職すべきかどうかもう一度考えてみましょう。
考えたうえで、職場復帰を希望し、主治医・産業医の許可が出る場合は、念のため復帰後も自身で心身のケアを充分にしながら、予防のために通院を継続し、安心した状態で日々を過ごしていけるように工夫しましょう。
さらに、復帰前の不安や気まずさを解消するためには、職場で自身が前向きに過ごしていける「見通し」を立てることが、とても有効です。
ここでは、その「見通し」の立て方について、紹介していきます。
はじめから復職前のようにバリバリ働いたり、何かを成し遂げようなどと思う必要はありません。
(そもそも復職前の働き方が良かったとも限りません)
「1週間:毎日出社する」
「1か月:毎日チームのメンバーに挨拶する」
「3か月:過去抱えていた〇〇プロジェクトに、少しでも関わっている」
などの、段階的で小さな目標を自分の今できる範囲で立ててみましょう。
働きだすと、ついつい無理をしたり、自分の心の声に耳を傾けることを忘れてしまいがちです。
職場のわずかな休憩時間や家に帰って一息ついた時などに、自分の小さな体調の変化を感じてみたり、ストレスチェックなどをこまめにしていきましょう。
一度職場復帰をしたら、今後いっさい休めなくなるというわけではありません。
少し休む、または配置換えをお願いするという選択肢も、常に持っています。
なので、仕事をしていく中で何か悩んだり困ったりしたら、上司・産業医・産業カウンセラーなどにすぐ相談していきましょう。
自分が心地よく働ける状況を作るために、取り組めることがあれば実践してみましょう。
たとえば、日々の休息や運動を意識して取り入れてみたり、家族・友人・心許せる同僚などの相談先の確保につとめましょう。
気まずい時間も、慣れていく途中の大事な過程と捉えてみませんか。
自身のその変化を少しずつ楽しめるようになると、徐々に気持ちの変化が生まれていきます。
そして、新たなキャリア(生き方、働き方など)を構築したいと思える時も来るかもしれません。
ご紹介したように、休職後の復帰に「気まずさ」を感じるのは、いたって普通の感覚です。
なので、日々焦らず無理をせず、どこまでも自分のペースで進めていくことが大切です。
また、復職前後に困ったことがあれば、まずは上司・産業カウンセラー・人事などに、早めに相談をしていきましょう。
復帰は「リセット」ではなく、あなたの人生の大切な「続き」です。
そして、新たなキャリアを構築したいと思える時も来るかもしれません。
本記事の内容を実践しながら、少しずつでもいいので、自分らしい働き方を取り戻していきましょう。
メンタルリンクでは、今回の記事に関連した研修を行なっております。
詳しくは、以下をご覧ください。
【非管理職向け】セルフケア研修
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【管理職向け】セルフケア研修
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【入社1~3年目向け】レジリエンス研修
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【管理職向け】ラインケア研修
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【管理職向け】心理的安全性研修
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【全社員向け】タイプ別コミュニケーション研修
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【入社1~3年目向け】上手な叱られ方研修
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株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。 研修・講演は年間約200回、カウンセリングは年間のべ400人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。『なぜパワハラは起こるのか 職場のパワハラをなくすための方法(ぱる出版)』『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社)『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)など書籍・メディア掲載も多数。