職場のコミュニケーション不足がもたらす問題とは?原因と具体的な改善策について解説

コミュニケーション

近年、働き方改革やテレワークの普及により、企業における働き方は大きく変化しています。

このような変化に伴い、職場でのコミュニケーションの重要性がこれまで以上に注目されています。

例えば、かつては同じ空間で仕事をしていたからこそ自然と交わされていた会話や雑談も、リモートワーク下では意識的に機会を設けなければ生まれにくくなりました。

さらに、出社時の何気ない挨拶をすることも、躊躇してしまう社員もいます。

コミュニケーションは単なる情報交換にとどまらず、信頼関係の構築やエンゲージメントの向上、チームの方向性の共有、問題の発見や早期対処など、あらゆるビジネスシーンにおいて不可欠な要素です。

本記事では、「コミュニケーション不足がもたらす問題と、それを解消するための実践的な方法、取り組んでいる企業の具体例」について、詳しく解説していきます。

職場環境の改善や生産性向上につながるでしょう。

職場のコミュニケーション不足が招く5つの問題

それではここからは、職場のコミュニケーション不足が招く問題を、事例を交えて5つ紹介します。

1.業務ミスの増加

職場内での情報共有が不十分だと、指示内容の解釈違いや確認不足が発生しやすくなります。その結果、納品物のやり直しや二重作業、トラブル対応など、業務に無駄が生じてしまいます。

また、こうしたミスが頻発すると、企業に対する信用が損なわれ、最終的には顧客の信頼も失いかねません。

ある製造業の企業では、製品仕様の更新情報が設計部門から製造現場に伝わっていませんでした。

そのため、旧仕様のまま製造を進めてしまい、大量の不良品が発生。急遽、全製品を回収・作り直すことになり、数千万円規模の損害を出してしまいました。

「誰が最新情報を伝えるか」が明確に決まっておらず、共有の仕組みが曖昧だったことが原因でした。

2.業務の質の低下

コミュニケーションが活発な職場では、アイデアやフィードバックが自然に飛び交い、業務の改善や創造的な提案が生まれやすくなります。

しかし、会話が少なく従業員それぞれが孤立しがちな環境では、問題を一人で抱え込む傾向が強まり、仕事の質が低下しやすくなります。

その結果、全体の業務の質に多大な悪影響を及ぼしてしまうこともあります。

あるIT企業では、若手エンジニアが抱える技術的な問題がチーム内で共有されず、一人で何日も悩み続けていました。

結果、リリース予定だった新機能の品質に大きな不具合が残り、顧客からクレームが続出。

振り返りの場で、「もっと早く相談できる雰囲気があれば防げた」と本人も上司も後悔する結果となりました。

3. コンプライアンス違反のリスク

報告・連絡・相談(報連相)がしにくい職場環境では、不正行為やパワハラ・セクハラなどのハラスメント行為が見過ごされるリスクが高まります。

小さな問題でも、早期に共有されなければ、やがては企業の信用を揺るがす重大なコンプライアンス違反につながりかねません。

ある中堅商社では、営業部門の上司が部下に対して過度な叱責や深夜までの無理な業務指示を繰り返していました。

しかし、部下たちは「上司に逆らうと評価が下がる」と考え、誰も声を上げられませんでした。

結果として、数名の社員が相次いで退職し、外部から労働環境に関する匿名通報が寄せられました。

労基署の立ち入り調査が入る事態に発展しかねません。

社内に相談窓口はあったものの、形だけの存在で、誰も利用できなかったのが大きな問題でした。

実際、各企業のコンプライアンス違反に関する報告書を読むと、報連相がしにくい職場環境であったことがわかります。

4. 顧客満足度の低下

社内での情報連携が不十分だと、顧客対応にも支障が出るようになります。

顧客の要望が正しく共有されなかったり、部署間の連携ミスにより納期が守れないといったことが起きれば、顧客の期待を裏切る結果となり、満足度やリピート率の低下につながります。

ある広告代理店では、営業担当が顧客から「急ぎの修正依頼」を受けたにもかかわらず、制作チームへの連携が漏れていました。

納品直前に顧客から「修正はどうなっていますか?」と問い合わせが入り、初めて問題が発覚。結果、納期には間に合わず、大型契約の更新を見送られてしまいました。

「誰が・いつ・どんな内容を受けたか」を一元管理する仕組みがなかったことが原因でした。

5. 離職率の上昇

職場での人間関係が希薄だと、社員は孤立感や疎外感を感じやすくなります。

特に新入社員や若手社員にとっては、気軽に相談できる相手がいない環境は大きな不安要素であり、早期離職につながる要因にもなります。

また、中途入社したばかりの社員は同期がいないので、孤立しやすい立場でもあります。

あるコンサルティング会社では、入社1年以内の社員の離職率が30%を超えていました。

理由を調査すると、「誰にも相談できない」「失敗してもフォローがない」といった声が多数寄せられました。

業務はきちんと教えていても、「職場に頼れる人がいる」という安心感を持たせる取り組みが不足していたのです。

コミュニケーション不足の主な原因

上司や経営陣との接点の少なさ

経営層や管理職と一般社員との間に日常的な接点が少ない場合、現場で何が起きているかが見えづらくなり、適切な判断や迅速な対応が難しくなります。

特に、トップダウン型の文化が強い企業では、「経営陣の考えが見えない」「現場の声が届かない」といった不満が蓄積しやすくなります。

社員からすると、ただ命令が降ってくるだけの一方通行な関係では、信頼関係の構築は困難です。

現場の声を拾い上げる仕組みがなくなると、小さな課題や意見が埋もれてしまい、組織全体の柔軟性や対応力が低下することになります。

部署間の情報共有の不足

企業規模が大きくなるほど、部門同士が“縦割り”になりやすく、それぞれが独立して業務を進めがちです。

たとえば、営業部門が顧客から受け取った要望が、製造や開発部門に正確に伝わらなかった結果、納品内容にズレが生じるといったケースはよく見られます。

また、マーケティング部門が蓄積した市場データが営業現場に共有されず、施策に活かされないこともあります。

こうした情報共有不足は、業務効率の低下だけでなく、顧客満足度の低下やトラブルの温床にもなり得ます。

部署間の壁を取り払い、横のつながりを強化する取り組みが求められます。

雑談や相談がしにくい職場の雰囲気

仕事の効率ばかりが重視される環境では、「雑談は無駄」と見なされ、必要最低限の会話しか交わされなくなることがあります。

しかし、気軽な雑談やちょっとした相談こそが、信頼関係を築く土壌となり、コミュニケーションのきっかけになります。

それができない環境では、社員は「相談しても迷惑がられるのでは」と感じ、次第に口を閉ざすようになります。

また、上司や先輩との心理的な距離が大きい場合、部下は自らの悩みやアイデアを打ち明けにくくなり、孤立を深めてしまうことも起こり得ます。

円滑な業務遂行には、オープンで対話しやすい職場づくりが不可欠です。

口頭指示による情報の曖昧さとコミュニケーションツールの不足

現場での指示や連絡が口頭中心になっている職場では、受け手による解釈の違いが生じやすく、結果としてミスやトラブルが増加する傾向があります。

また、チャットツールや共有ドキュメントなどのITツールが整備されていない場合、情報の伝達スピードや正確性に大きな差が生まれます。

たとえば、「聞いた・言った」の食い違いが生じた際に、記録が残っていなければ確認すらできず、トラブル対応が後手に回ってしまいます。

近年ではリモートワークの普及も進んでおり、物理的に顔を合わせる機会が減る中で、こうしたツールの有無は職場コミュニケーションの質を大きく左右する要素となっています。

大手企業では完備しているところが多いですが、中小企業ではまだまだ完備されていないところもあります。

コミュニケーション改善策の具体例6選

ここでは、職場でのコミュニケーション改善策として、企業が実際に行っている取り組みを紹介します。

1.1on1ミーティングの導入

定期的な個別対話を通じて信頼関係を築き、部下の成長を支援する1on1ミーティングは、多くの企業で導入が進んでいます。

ヤフー株式会社

ヤフー株式会社では、2012年に1on1ミーティングを導入しました。

背景には、スマートフォン市場の急拡大による事業環境の変化と、人材流出リスクへの危機感がありました。

当時、社内コミュニケーションがメールやチャット中心だった課題を解消するため、週1回30分、必ず「次のアクション」を決める1on1を全社で実施。

コーチング、ティーチング、フィードバック、学びの確認という4つの要素を軸に、部下の成長を支援する取り組みが定着しました。

引用元:コチーム | 1on1ミーティング導入企業7社の事例【ヤフー・楽天・テモナなど有名企業の事例を紹介】

楽天グループ株式会社

楽天グループ株式会社では、2017年から全社的に1on1ミーティングを導入し、管理職が毎週または隔週で部下と30分間の1on1を実施しています。

本体だけで6000人規模、毎週5000時間以上を1on1に費やすという大規模な取り組みです。

導入初期には、経営層約70名を対象に外部コーチによるトレーニングを実施。

単なる面談ではなく、「上司が部下に考えさせる場」としての1on1の本質を学び、組織全体に浸透させました。

引用元:コチーム | 1on1ミーティング導入企業7社の事例【ヤフー・楽天・テモナなど有名企業の事例を紹介】

2.社内イベントの開催

業務外のイベントは、普段関わりの少ない社員同士の交流を促進し、社内に新しい会話のきっかけを生み出します。

コロナ禍や不景気によって、社内イベントを中止にする企業が目立っていましたが、最近になって復活させる企業が増えています。

運動会や全社表彰式など大々的なイベントではなくても構いません。

日本食研

日本食研では、「売り上げ予想クイズ」や「かえるシート」といったユニークな社内イベントを実施しています。

「売上予想クイズ」では社員が月次売上を予想することで、全社的な数字への関心を高めることができ、「かえるシート」では業務改善提案を募集することで、社員の声を制度改革に生かしています。

大胆でユニークなイベントを通じて、心理的安全性の高い職場環境が構築されています。

引用元:TUNAG|社内イベントの定番企9選

Sansan株式会社

Sansan株式会社では、家族が職場を訪問する「ファミリーデー」を開催しています。

社員の子どもたちが職場を見学することで、家庭とのつながりや家族の仕事理解を深めると同時に、社内の温かい雰囲気づくりにもつながっています。

引用元:日本の人事部|モチベーションアップにつながる社内イベントとは?

3.社内報の活用

情報共有を目的とする社内報は、組織のビジョン浸透や、社員同士のつながりづくりに貢献するツールです。

マルハニチロ株式会社

マルハニチロ株式会社では、社内イントラネットをリニューアルし、経営理念の浸透と組織の一体感づくりを目的とした情報発信を強化しています。

経営層からのメッセージ発信に加え、各部署の取り組みや現場発の改善活動、商品開発なども社内報で紹介。

また、現場で頑張る社員の紹介記事なども掲載し、社員同士の相互理解を深めています。

単なる情報共有にとどまらず、社員同士の相互理解を深め、会社の変革を全社で支える文化づくりに取り組んでいます。

引用元:リコー|お客様事例 マルハニチロ株式会社

4.シャッフルランチの実施

異なる部署や職種の社員が定期的にランチを共にすることで、気軽な交流の場を創出する施策も注目されています。

夜の懇親会、飲み会には抵抗がある、子育て・介護で夜は空けられない社員でも、ランチであれば参加したいという人も多いようです。

株式会社TRASTA

株式会社TRASTAでは、部署や職種を超えたランダムなグループを作成し、食事を通じて自然な交流を促す「シャッフルランチ」を、毎月1回実施しております。

業務の枠を超えたつながりが生まれることで、結果的に日常業務における連携の円滑化にもつながっています。

引用元:株式会社TRASTA|シャッフルランチ制度導入記事(Wantedly)

5.社内SNSの導入

リアルタイムな情報共有や気軽な相談・雑談ができる環境として、社内SNSの導入が進んでいます。

サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社では、その場で現在の状況や感想、雑談などをチームに共有する「分報」という取り組みに際して、自社製品である社内SNS「kintone」を活用しています。

日報や業務進捗の共有に加え、社員が今すぐ自由にアイデアや感想を書き込める掲示板も設けられており、オープンな対話文化を作り出すことに一役買っています。

社内SNSの積極的な使用により、部署間の壁を越えたコミュニケーションが日常的に行われる環境が整っています。

引用元:THE HYBRID WORK|まるで社内SNS!「分報」でメンバーの状況をハイブリッドワークでも感じられるようにしよう

6.フリーアドレス制度の採用

固定席を設けず、社員が日替わりで自由に席を選ぶ「フリーアドレス」は、新たな人間関係の構築を促進するきっかけとして注目されています。

パーソルキャリア株式会社

パーソルキャリア株式会社では、社長室の前にフリーアドレス席を設けました。

それにより、経営陣と社員がより近い距離で親しみやすくコミュニケーションを取ることができます。

オフィスの他のフロアも、業務の特色に合わせたデスク配置が可能となっています。

引用元:Touch! PERSOL | 新社屋オープン!「はたらいて、笑おう。」を目指してワークスタイル変革に挑戦

日本航空株式会社(JAL)

日本航空株式会社は、2015年にフリーアドレス制度を開始し、現在は同社の12の部門でフリーアドレスが導入されています。

毎日異なるメンバーと顔を合わせることで、部門やグループの垣根を超えた交流が可能となりました。

社員同士の会話や相談の機会が増えると、それぞれの進捗や担務が「見える化」され、結果として月の残業時間を減少することにも成功しました。

引用元:文春オンライン | JAL「フリーアドレス」オフィスで、マネジメントが変わった

まとめ

職場におけるコミュニケーションは、単なる情報伝達の手段にとどまらず、信頼関係の構築、業務の質の向上、エンゲージメントの向上、そして組織全体の健全性を保つうえで欠かせない要素です。

働き方改革やテレワークの普及により、かつてのような自然な会話や雑談が生まれにくくなっている現代では、意識的にコミュニケーションの機会を設けることがますます重要になっています。

また、職場での日々の会話や雑談から得られる気づきは、問題の早期発見や新たなアイデアの源にもなります。

本記事で紹介したような改善策は、比較的簡単に実践できるものばかりです。

すべてを一度に実施する必要はなく、まずは「1on1」や「社内SNSの活用」といった、手軽に始められるものから取り入れてみるのがおすすめです。

小さな一歩の積み重ねが、やがて職場全体の風通しを良くし、持続的な組織の成長と、働きやすい職場環境へとつながっていくことでしょう。

関連研修

メンタルリンクでは、今回の記事に関連した研修を行なっております。
詳しくは、以下をご覧ください。

【管理職向け】ラインケア研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/line_care/

【全社員向け】タイプ別コミュニケーション研修
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【入社1~3年目向け】レジリエンス研修
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【管理職向け】心理的安全性研修
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【管理職向け】本物の傾聴力研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/listening/

この記事を書いた人

公認心理師/シニア産業カウンセラー

宮本剛志

株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。 研修・講演は年間約200回、カウンセリングは年間のべ400人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社)『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)など書籍・メディア掲載も多数。

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