2025年02月26日
ハラスメント
職場で起こるハラスメントには、さまざまな種類があります。当コラムでも、過去に様々なハラスメントを解説してきました。
ハラスメントはその原因によって様々な種類に分けられ、現在は50種類以上のハラスメントが存在するといわれており、パワハラやセクハラのような代表的なものから、最近ではカスハラをはじめ、ロジハラやハラハラなど、数多くのハラスメントが話題になっています。
そこで本記事では、現役の公認心理が2025年最新の各ハラスメントについて種類別に解説します。
今回の記事は拙著『「ハラスメント」の解剖図鑑』の内容を元に、40種類のハラスメントを2回に分けて解説をいたします。より詳しく知りたい方は、ぜひ書籍をご購入ください。
後半の記事は以下のリンクからご覧いただけます。
ハラスメントとは、いじめ・嫌がらせのことです。相手に不快感や精神的苦痛を与える行為全般を指します。
これは、暴力などの身体的な行為だけでなく、暴言や無視といった精神的なダメージを与える行為も含まれます。
刑事罰の対象となるようなハラスメントやいわゆるハラスメント防止法等で措置義務となるハラスメント、客観的に見て職場の人間関係や職場の生産性に影響を与えるレベルのハラスメントなど、レベルによっても内容がかわってきます。(懲戒処分等を行う場合には、ハラスメント防止法等で措置義務になっている事案以上のものが多い)
ハラスメントの段階(イメージ)
ハラスメントは、職場の人間関係の悪化、生産性の低下、休職・離職や企業のイメージダウンによる人材不足を招くため、決して軽視できる問題ではありません。
ハラスメントを防止するためには、職場での適切な対応が求められます。
具体的には、ハラスメントに関する方針の明確化と周知・啓発、相談窓口の設置、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシーの保護、不利益な取り扱いの禁止などが挙げられます。
これらの取り組みにより、働きやすい環境を整えることが重要です。
それではここからは、それぞれのハラスメントについて紹介をしていきます。
パワーハラスメントとは、職場において職務上の地位や人間関係などの優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものを指します。
具体的には、以下の6つの類型に分類されます。
①身体的な攻撃:暴行や傷害など、身体に対する直接的な攻撃。
②精神的な攻撃:脅迫、侮辱、過度な叱責など、精神的な苦痛を与える行為。
③人間関係からの切り離し:仲間外しや無視など、職場での孤立を強いる行為。
④過大な要求:遂行不可能な業務を押し付けるなど、過度な負担をかける行為。
⑤過小な要求:能力や経験に見合わない簡単すぎる業務を与え、やりがいを奪う行為。
⑥個の侵害:私生活への過度な干渉やプライバシーの侵害。
これらの行為は、被害者の心身に深刻な影響を及ぼすため、職場での適切な対応と防止策が求められます。
セクシュアルハラスメントとは、職場において行われる、性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されるものを指します。主に以下の2つの類型に分類されます。
①対価型セクハラ:昇進や評価などの職務上の利益と引き換えに性的な関係を求める行為、または拒否したことによる解雇や降格、減給などの不利益な扱い。
②環境型セクハラ:性的な言動や性別による差別につながるような言動により、職場環境を不快にし、業務遂行に悪影響を及ぼす行為。
具体的な例として、性的な冗談や不必要な身体接触、性的な噂の流布などが挙げられます。セクハラは被害者の性別を問わず発生し得るため、全従業員が理解し、防止に努めることが重要です。
これらのハラスメントについての詳細や具体的な事例は、書籍内で詳しく解説されています。
モラルハラスメントとは、言葉や身振り、文書などで人格や尊厳を傷つける、「道徳」や「倫理」に反する行為を指します。
具体的な例として、侮辱的な発言、無視、過度な批判、嘲笑、脅迫などが挙げられます。これらの行為は、被害者の自尊心を損ない、長期的な心理的ダメージを引き起こす可能性があります。
モラハラは家庭内、職場、学校など、さまざまな環境で発生し得ます。職場においては、立場に関係なく行われるものであり、同僚同士・管理職同士の関係でも行われることがあります。労働意欲の低下やメンタルヘルスの悪化を招くため、組織としての対策が求められます。
マルハラスメントとは、主に若者がメールやチャットなどのメッセージの文末に句点「。」が付くことで、威圧感や冷たさを感じる現象を指します。
例えば、「承知しました。」と句点を付けて送信すると、受け手によっては冷淡な印象を受けることがあります。
この感覚は、特に若い世代で顕著であり、句点の有無でメッセージのニュアンスが大きく変わると感じる人も少なくありません。
一方で、中高年の世代はメール文化の影響から、文末に句点を付けることが一般的であり、特に意図せず使用しています。
このような世代間のコミュニケーションスタイルの違いが、マルハラと呼ばれる現象を引き起こしています。
相手の感じ方や世代間の価値観の違いを尊重しつつも、ビジネス文書においては句読点が不可欠であるため、若い世代にもその重要性を伝えることが求められます。
カラオケハラスメントとは、職場の飲み会や接待などで、カラオケの参加や歌唱を強要する行為を指します。
具体的には、カラオケが苦手な人や歌いたくない人に対して、無理にマイクを渡したり、歌うことを執拗に勧めることが該当します。
このような行為は、被害者にとって大きなストレスとなり、場合によっては職場環境の悪化や人間関係のトラブルを引き起こす可能性があります。
特に、上司や先輩などの立場を利用して強制する場合は、パワーハラスメントとして認定されることもあります。カラハラを防ぐためには、個々の意思や嗜好を尊重し、強制的な参加を避けることが重要です。
マタニティハラスメントとは、妊娠・出産及び育児等をする人に対する、職場における不利益な扱いをするいじめ・嫌がらせのことを指します。主に以下の2つの類型に分類されます。
①制度などの利用への嫌がらせ型:産休・育休の取得に対して否定的な態度を取られる、復職後に配置転換や降格を強いられるなどの行為。
②状態への嫌がらせ型:女性が妊娠した際に退職を迫られたりするなどの行為。
これらの行為は、女性のキャリア形成や働く意欲を損なうだけでなく、職場全体の士気低下にもつながります。
マタハラの防止には、企業が妊娠・出産に関する正しい知識を共有し、働きやすい環境を整備することが重要です。
パタニティハラスメントとは、男性労働者が育児休業や育児参加を希望・取得する際のいじめ・嫌がらせのことを指します。
例えば、育児休業の申請に対して「男性が育休を取るなんて前例がない」と否定的な反応を示されたり、育休取得後に昇進や評価で不利益を被るなどのケースが報告されています。
このような行為は、男性の育児参加を阻害し、家庭と仕事の両立を困難にします。
パタハラを防止するためには、企業が育児休業制度の重要性を理解し、男女問わず育児に参加できる職場文化を醸成することが求められます。なお、法改正も進んでいるので、定期的に最新情報を確認する必要があります。
ケアハラスメントとは、労働者が家族の介護や看護を行う際のいじめ・嫌がらせのことを指します。
具体的には、介護休業や時短勤務の申請に対して否定的な態度を取られたり、介護を理由に重要な業務から外される、評価が下がるなどの行為が該当します。高齢化社会において、家族の介護は多くの労働者が直面する課題であり、ケアハラは働き続ける意欲を削ぐ要因となります。
企業は、介護と仕事の両立を支援する制度を整備し、従業員が安心して働ける環境を提供することが重要です。
ジェンダーハラスメントとは、性別に基づく不当な扱いや言動により、不快感や排除感を与えるいじめや嫌がらせのことを指します。
「女性だから感情的だ」「男性なのに細かい作業が得意なのか」といった性別に関連したステレオタイプを押し付ける発言や、性別を理由に業務内容や昇進の機会を制限する行為などが該当します。
これらの行為は、多様性を尊重する職場づくりの妨げとなります。セクハラにもつながります。
ジェンダーハラスメントを防止するためには、性別にとらわれない評価基準を設け、全従業員が平等に活躍できる環境を整えることが必要です。
ジェンダーフリーハラスメントとは、どんな状況でもジェンダーフリーを強く訴え、法的な根拠を超えた無理な要求等を繰り返すいじめ・嫌がらせのことを指します。
例えば、人事が努力して同性パートナーでも福利厚生を利用できるように準備中にも関わらず、「今すぐできないなんて、差別主義者だ!」と詰め寄る、会社が借りているビルのオーナーに対して「トイレが男性用・女性用で分かれているなんて時代遅れのビルだ!SNSで拡散してやる」と脅す行為などが該当します。
このようなハラスメントは、かえって多様性を受け入れる社会の実現を妨げます。
防止策として、法律や職場の資源等を冷静に判断し、できることから少しずつ、皆で一緒に取り組んでいくという姿勢が求められます。
エイジハラスメントとは、年齢や世代を理由にしたいじめ・嫌がらせのことを指します。
具体的には、若年層に対して「経験が浅いから信用できない」と決めつけたり、高齢者に対して「もう年だから新しいことは無理だろう」と能力を低く評価する発言などが該当します。
これらの行為は、労働者の自尊心を傷つけ、職場の活力を損ないます。エイジハラスメントを防止するためには、年齢に関係なく個々の能力や経験を正当に評価し、多様な年齢層が協力して働ける環境を整えることが重要です。
SOGIハラスメントとは、性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)に基づくいじめ・嫌がらせのことを指します。
具体的には、同性愛者やトランスジェンダーの個人に対する侮辱的な発言、性的指向や性自認を理由とした差別的な扱い、プライバシーの侵害などが含まれます。
これらの行為は、被害者の尊厳を傷つけ、精神的な苦痛を与えるだけでなく、職場や社会における多様性の尊重を妨げます。
各種調査によると12人~13人に1人がLGBTQに該当すると言われています。
企業や組織は、SOGIに関する正しい理解を深め、全ての人が安心して働ける環境を整備することが求められます。
レイシャルハラスメントとは、人種、国籍、民族的背景に基づくいじめ・嫌がらせのことを指します。
例えば、特定の人種や民族に対する差別的な発言、出身国や文化を侮辱する行為、国籍を理由とした不当な待遇などが該当します。
これらの行為は、被害者の尊厳を傷つけ、グローバルな人材の採用や活躍を阻害し、企業の評判を落とし、業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。
多様なバックグラウンドを持つ人々が共存する現代社会において、レイシャルハラスメントを防止するためには、全ての人が互いの違いを尊重し、学び合い、偏見や差別をなくす努力が必要です。
ボーダレスハラスメントとは、立場・年齢・経験・価値観・性別などの違いがあることはすべて悪と捉えて、業務に支障をきたすほど徹底的にボーダレス(境界がないこと)を求めたり、相手を差別主義者だと決めつけるなどのいじめ・嫌がらせのことを指します。
具体的には、従業員の経験値・社歴を全く考慮しない目標を作る、立場による業務負担を考慮せず役職手当を一方的に廃止するなどが含まれます。
これらの行為は、被害者の働く意欲を削ぎ、責任を不明確にし、チームワークや生産性の低下を招く可能性があります。
職場では立場や経験などによって、求められていることが違う可能性があります。まずはその目的について確認し、話し合う姿勢が大切です。例えば、ベテランと若手では知識や技術が違う可能性があります。
その差を考慮することを「差別」と断定してしまうと、職場が成り立たなくなってしまうことがあります。
ソーシャルハラスメントとは、ソー―シャルネットワーキングサービス(SNS)を使って無理やりつながる他、投稿や連絡などによるいじめ・嫌がらせのことを指します。
具体的には、Xで個人情報の無断公開、虚偽の情報拡散、悪意のあるコメントやメッセージの送信、上司が部下にFacebookの友達申請をし、承認することをしつこく依頼するなどが含まれます。
これらの行為は、職場の人間関係を悪化させるだけではなく、被害者の社会的評価を低下させ、深刻な精神的被害をもたらす可能性があります。
ソーシャルハラスメントは、被害の拡散が迅速であり、被害者の生活に長期的な影響を及ぼすことがあります。
個人としては、SNSの利用に際して他者への配慮を忘れず、企業や組織は従業員に対して適切な教育やガイドラインの提供を行うことが求められます。
マリッジハラスメントとは、未婚者に対して、結婚しない理由を確認する、しつこく結婚を勧める、結婚していないことを理由に業務上の不利益を与える、結婚状況を理由に差別的な扱いを行うなど、結婚に関する価値観に基づいたいじめ・嫌がらせのことを指します。
例えば、未婚の人に対して結婚を強要する発言、既婚者に対する過度な家庭責任の期待、離婚経験者への偏見的な態度などが該当します。
これらの行為は、個人のライフスタイルの選択を尊重せず、精神的な負担を強いるものです。
多様な生き方が認められる現代社会において、個々の結婚観や家庭状況を尊重し、偏見や差別のない環境を築くことが重要です。
メンヘラハラスメントとは、精神的な健康状態に関する偏見や差別的な言動を行ういじめ・嫌がらせのことを指します。
具体的には、精神疾患を持つ人に対する侮蔑的な呼称の使用、病状を軽視する発言、治療や休養の必要性を理解しない態度、「あの人はうつ病だ」と決めつける発言などが含まれます。
これらの行為は、被害者の回復を妨げ、社会的な孤立感を深める原因となります。精神的な健康問題は誰にでも起こり得るものであり、社会全体で理解と支援の姿勢を持つことが求められます。
企業や組織は、メンタルヘルスに関する教育を行い、全ての従業員が安心して働ける環境を提供することが重要です。
また、医師ではない人が「あいつはうつ病だ」「あの人は適応障害に決まっている!」等の発言は人権侵害に該当する可能性があることを伝えることも大切です。
コロナハラスメントは、新型コロナウイルスに罹患したことに関するいじめ・嫌がらせのことを指します。
具体的な事例として、咳や発熱などの症状を示す人に対し、「うつるから近寄るな」といった発言をする、感染が疑われる人を「コロナ」と呼んで侮辱する、あるいは感染者やその家族に対して無視や冷たい態度を取るなどが挙げられます。
これらの行為は、被害者に深刻な精神的苦痛を与え、社会的な孤立を招く可能性があります。
また、職場においては、感染リスクを理由に不当な配置転換や解雇が行われるケースも報告されています。
コロハラを防止するためには、正確な情報に基づく冷静な対応と、感染者やその周囲の人々への思いやりが重要です。
今回の記事は拙著『「ハラスメント」の解剖図鑑』から、押さえておくべき基本的なハラスメントと、多様性時代におけるハラスメントを紹介しました。
また、拙著では取り上げなかった事例なども加えました。
これらのハラスメントは、職場や社会での人間関係において問題となる行為です。各ハラスメントの詳細や具体的な事例については、書籍内で詳しく解説されていますので、気になった方はぜひ書籍を手にとってご一読ください。
企業や官公庁、学校にて年間150回程度のセミナーを行い、年間300人以上から個別の相談を受け、さまざまなハラスメントを解決に導いてきた著者が、職場で起きやすい全48種のハラスメントを解説しています。
ハラスメントは職場環境の重要な要素であり、職場環境は業績にも大きく作用します。
企業として、社会として、そして個人の幸せ追求のために必携の知識をこの一冊で!
株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。研修・講演は年間約155回、カウンセリングは年間のべ275人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。「怒る上司のトリセツ(時事通信社)」「週刊ダイヤモンド(2020年5月16日号)」など書籍・メディア掲載も多数。