2025年11月06日
ハラスメント
「お客様からのクレーム」と「理不尽なカスハラ」、その違いをご存知でしょうか?
最近では、カスハラをきっかけに炎上・裁判・従業員退職といった大きな問題に発展するケースも増えています。
一見すると「カスハラ」と「クレーム」は同じように見えますが、実際にはまったく異なるものです。
しかし、混同してその対応や処理を間違えると、炎上・訴訟問題・従業員の退職など、企業側に多大なリスクが生じることがあります。
カスハラ対策は企業や従業員を守る砦ですので、まずは正しく認識する必要があります。
この記事では、「カスハラ」と「クレーム」の違いを解説し、事例や現場対応方法を通して企業が取るべき正しいカスハラ対策を詳しく解説していきます。
目次
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略称です。
つい最近まで法律用語ではありませんでしたが、東京都はじめ各都道府県等でカスハラ条例が作られ、2025年6月にいゆる「カスハラ防止法」が成立しました。
一般的にはお客様や取引先からのハラスメントを「カスハラ」と呼びます。
カスハラとは、以下のように定義されています。
「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること」
分かりやすくいえば、顧客や取引先から過剰な要求をされたり、商品やサービスに対して不当な言いがかりをつけられたりすることをカスハラと呼びます。
対面だけではなく、SNSを通したカスハラも目立ち始めました。
カスハラにはBtoC型(企業・消費者)型、BtoB(自社・取引先)型があります。
カスハラについての詳細は、以下の記事で解説をしています。
クレームとは、顧客や取引先が商品やサービスに不満を感じ、その改善や対応を求めて企業に伝える意見や苦情のことです。
クレームは「妥当な要望」である場合も多く、必ずしもネガティブなものではありません。
企業にとっては、サービスの質を向上させるための貴重なフィードバックとも言えます。
例えば、
・商品に不具合があったため、返品や交換を求める
・サービス対応に不備があったため、改善を要望する
・説明と実際の内容が異なっていたため、説明の修正を求める
といったものは妥当なクレームです。
つまりクレームとは「顧客が正当な理由に基づき、適切な手段で改善や対応を求める行為」であり、企業にとって改善や信頼回復のチャンスでもあります。
それではここからは、カスハラと一般的なクレームの違いについて解説します。
両者の大きな違いは、2つです。「要求の妥当性があるか」「不当な言動があるか」です。
要求の妥当性があるか
・クレーム:商品やサービスへの妥当な苦情・改善要望
・カスハラ:商品やサービスへの不当な苦情・改善要望
不当な言動があるか
・クレーム:暴言・威圧・人格否定・土下座強要など、社会通念を超える不当な言動はない
・カスハラ:暴言・威圧・人格否定・土下座強要など、社会通念を超える不当な言動
クレームは本来、正当なものであればサービス改善につながる建設的な意見です。
一方でカスハラは、妥当性を欠いた要求や不当な態度によって、従業員や企業活動に悪影響を及ぼします。
当初はクレームだったはずが、段々「妥当性を欠くもの」や「不当な言動」に発展するケースがあります。
そうした場合は、クレームの枠を超えて「カスハラ」に該当すると判断されます。
カスハラとクレームを区別する際には、次の3つの視点から判断することができます。
・要求の妥当性:社会通念や契約内容に照らして妥当なものか。
・言動の手段や態度:冷静で適切な伝え方か、それとも暴言・威圧・人格否定を含むか。
・継続性・執拗性:必要な範囲の要望か、それとも長時間・何度もしつこく繰り返すか。
| 観点 | クレーム | カスハラ |
|---|---|---|
| 要求の妥当性 | 商品やサービスの改善につながる具体的な指摘 | 過剰な補償・過度な謝罪要求など理不尽な内容 |
| 言動の手段や態度 | 冷静で事実に基づいた伝え方 | 威圧・怒鳴り声・人格攻撃など感情的な振る舞い |
| 継続性・執拗性 | 通常の範囲で解決可能 | 長時間拘束や繰り返し連絡で業務を妨げる |
ここで、実際に企業や店舗などでの事例を元に、それが「カスハラ」なのか「クレーム」なのかを判断していきましょう。
深夜のコンビニで、20代の男性客がレジ対応をした店員の態度に不満を抱き、突然声を荒らげました。
「客に向かってその態度は何だ!今すぐここで土下座して謝れ!」と怒鳴り、店内の他の客の前で強引に土下座を強要。
さらにその様子をスマートフォンで撮影し、SNSに動画付きで投稿して「こんな店は潰れろ」と脅迫まがいのコメントを拡散しました。
店員に土下座を強要し、その映像を拡散する行為は、要求内容・態度ともに社会通念を著しく逸脱しており、明らかなカスハラに該当します。
休日の午後、親子連れの客が開店直後から飲食店を利用していました。ランチ後もおしゃべりを続け、入店から3時間以上が経過。
店内が混み始めたため、店員が「大変恐縮ですが、お待ちのお客様も増えておりますので…」と退店を促しました。
すると客は「何時間までってどこに書いてあるんだ?規則もないのに追い出すのか!」と強めの口調で反論。
店舗には長時間利用を制限するルールがなかったため、店員は謝罪して引き下がることになりました。
このケースは「明確なルールがない中での指摘」であるため、客の主張は一応正当なクレームと考えられます。
ただし、もしその場で怒鳴り散らしたり「バカにしてるのか」と人格否定を行えば、クレームがカスハラに発展する可能性が十分あります。
家電量販店に、中年男性の客が購入から2年が経過したテレビを持ち込みました。
「買った直後から調子が悪かった!今さらだけど全額返金しろ」と主張。
店員が「保証期間は1年で、現状では無償対応はできません」と説明すると、客は逆上し「客をバカにしてるのか!お前の名前は?責任者を出せ!」と暴言を浴びせました。
その後も店員の後を店内でつきまとい、他の客の前でも繰り返し怒鳴り散らす行為を続けました。
保証期間を過ぎた商品の返金要求は不当であり、さらに暴言やつきまといといった行為は典型的なカスハラに該当します。
ある中小のシステム開発会社が、大手企業から依頼を受けてWebシステムを納品しました。
納品後しばらく経ってから、取引先の担当者が「新しい機能を追加したい」と相談してきました。
本来であれば追加開発費用が発生する案件でしたが、担当者は強い口調でこう言い放ちました。
「取引を続けたいなら、この程度はタダでやって当然だろう」
「お宅がやらないなら、こちらも契約を打ち切らせてもらう」
さらに、深夜や休日にも繰り返し電話やメールを送りつけ、早急な対応を迫りました。
このケースでは、要求内容が契約範囲を超えているうえ、態度も威圧的で執拗です。
そのため、正当なクレームではなくBtoB型のカスハラ行為に該当します。
ここで、カスハラを受けた場合の対応方法を、5つのステップに分けて紹介していきます。
カスハラをしてくるお客様や取引先は、最初からカスハラをしようと思っていないことがほとんどです。
少し文句をいう程度に留めておくつもりが、その場の雰囲気や相手の対応に腹が立ち、次第にカスハラに発展してしまうというケースが非常に多いため、まずは相手の話をしっかりと聴き、必要があれば誠心誠意お詫びをしましょう。
相手を不快にさせてしまったことに対して謝罪をしつつ、原因や事実確認をすることを相手に伝えてください。
自社に非がある場合は、その旨をしっかりと伝えて、誠心誠意謝罪をしましょう。
「とにかく自分の気持ちを知ってもらいたい」
というお客様や取引先の場合、誠心誠意謝罪をすれば、その段階で身を引いてくれる可能性が高いです。
それでもご納得いただけない場合は、解決策を提示してください。
「弊社といたしましては~」
というように、対応したスタッフ個人の見解ではなく、会社としての対応であるということをしっかりと示すことによって、納得してもらえるケースもあります。
解決策を提示したからといって、必ずしも相手が納得してくれるとは限りません。
場合によっては、さらにヒートアップしてカスハラまがいの行為を行ってくることもあります。
そんな時は、相手の名前と住所を確認しましょう。
というのも、カスハラをしてくる方の中には、自分が不特定多数の一人と考えて強気に出てくる方もいます。
このような方に対して、名前と住所を確認することによって、それまでの言動や行動が嘘のように「もういい」と引き下がることもあるのです。
場合によっては、
「なぜ個人情報を伝えなければならないんだ」
といってくるケースもありますが、その場合は会社の方針であるということをしっかりと伝えるようにしてください。
解決策を提示したからといって、必ずしも相手が納得してくれるとは限りません。
場合によっては、さらにヒートアップしてカスハラまがいの行為を行ってくることもあります。
そんな時は、相手の上司(管理職・担当役員)の名前と連絡先を確認しましょう。
というのも、カスハラをしてくる方の中には、自分が社内でプレッシャーを受けていて立場が弱いため取引先に強気に出てくる方もいます。
このような方に対して、相手の上司(管理職・担当役員)の名前と連絡先を確認することによって、それまでの言動や行動が嘘のように「もういい」と引き下がることもあるのです。
場合によっては、
「なぜ上司の名前と連絡先を伝えなければならないんだ」
といってくるケースもありますが、その場合は「社内で相談し、弊社から貴社へ正式に回答するためです」としっかり伝えましょう。
何をしても相手が引き下がらない場合、対応を打ち切る必要が出てきます。
この時におすすめなのが「警察を呼ぶ」と伝える方法です。
そうすることによって、相手が引き下がる可能性が高くなります。
それでも引き下がらない場合は、実際に警察を呼んで間に入ってもらいましょう。
従業員が快適に働ける職場にするためには、経営陣や担当者がカスハラ対策をしっかりと行う必要があります。
大切な従業員を守るためにも、自らの事業を守るためにも、以下で紹介する方法を参考にしながら対策を行っていきましょう。
カスハラ対策をするためには、ひとまず従業員に対して基本方針を周知しなければなりません。
基本方針を周知することによって、スムーズにカスハラの対応が行えるだけでなく、従業員に対して安心感を与えられます。
基本方針を定める際は、クレームとのボーダーラインや、自社が定める具体的なカスハラの内容についても盛り込んでおきましょう。
カスハラを受けた時点で上司や会社に相談できる従業員もいれば、何をどうすればいいのかわからず、行動を起こせない従業員もいます。
カスハラの相談窓口を社内に設置することにより、従業員の安心感を高められると同時に、万が一トラブルが起こった場合でもスムーズに対応できるようになるのです。
カスハラの対応方法について周知していたとしても、いざその現場に遭遇すると恐怖と不安で混乱してしまい、頭が真っ白になってしまうことがあります。
このような状況を回避し、カスハラに対してしっかりと対応していくためには、事前に対応フローを制定しておくことが大切です。
特に、パワハラ・セクハラ等のフローとの違いを明確にしておきましょう。
パワハラ・セクハラ等と違い、カスハラは営業先や店舗等、現場で社外の相手(顧客・取引先担当者・親会社の担当者等)から受けます。
そのため、上司が被害の現場を目撃することがあります。その際に、大切なことは、一次対応であり、ポイントは即対応です。
例えば、店舗で顧客からカスハラを受けていている部下を目撃した際には、すぐに間に入る必要があります。
決して、カスハラ加害者と一緒にその場で部下を責め立てるようなことはしてはいけません。
大事な顧客・取引先担当者からのカスハラを目撃すると、上司としては介入に躊躇するかもしれません。
しかし、カスハラによって職場の雰囲気が悪くなる、部下が疲弊すると、その他の顧客・取引先にも影響が出ます。
カスハラ対策は部下を守るだけではなく、その他の顧客・取引先を守ることにもなります。
上司の皆さんも大変だと思いますので、上司を労いながら一次対応の重要性を伝えましょう。
対応フローを制定したら、実際のカスハラを想定した研修やロープレを行いましょう。
実際にカスハラ対応の練習を行うことによって、頭ではなく体で対応方法を覚えられるようになります。
カスハラが注目されていますが、その反動として何でもカスハラとしてしまうケースが見られます。
また、適切な接し方ができないためにお客様や取引先を怒らせてしまうというケースも見られます。
顧客への言葉遣い、挨拶、声のかけ方など、基本と言われている接し方を改めて確認することも大切です。
クレームをカスハラにさせないように従業員のスキルアップも欠かせません。
「カスハラ」と「クレーム」は、その発言や対応の正当性に大きな違いが生じます。
そして、現場の混乱を未然に防ぐためにも、「正当な声」と「理不尽な要求」を正しく区別する必要性があります。
カスハラ行為から従業員を守る企業姿勢が、結果として企業を守り、その後すべての信頼につながっていきます。
大切な企業・従業員のためにも、両者の明確な線引きをし、周知徹底するなどして、万全の対策をしていきましょう。
メンタルリンクでは、今回の記事に関連した研修を行なっております。
詳しくは、以下をご覧ください。
【管理職向け】カスタマーハラスメント(カスハラ・BtoB型)対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/customer_harassment/
【全社員向け】カスタマーハラスメント(BtoC型)対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/customer_harassment_btoc/
株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。 研修・講演は年間約200回、カウンセリングは年間のべ400人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。『なぜパワハラは起こるのか 職場のパワハラをなくすための方法(ぱる出版)』『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社)『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)など書籍・メディア掲載も多数。