2024年09月14日
メンタルヘルスケア
近年では、メンタルヘルスの不調や、その他諸事情により退職ではなく「休職」を選択する方が増えています。
社員が休職を申し出た場合、企業側は退職時とは異なる手続きを行わなければなりません。
とはいえ、企業の人事担当者や管理職、あるいは経営者の方の中には、
「社員が休職した場合、企業側はどのように対応をすればいいの?」
と悩んでいる方も多くいるでしょう。
そこでこの記事では、社員が休職した場合に必要な手続きや、対応のポイント、それから注意点について詳しく解説していきます。
後半部分で、社員の休職率を下げるポイントについても紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
目次
まずは、休職の定義や欠勤との違いについて詳しく見ていきましょう。
休職とは、社員が自己都合で会社を長期間休むことです。
期間中は、通常業務が免除されますが、企業との雇用契約は結ばれている状態となります。
この制度は、労働基準法などで義務付けられているわけではなく、あくまでも任意の制度となるため、休職制度がある企業と、ない企業が存在しています。
休職と似た言葉に「欠勤」があります。
両者の代表的な違いは、通常業務を免除されているかどうかです。
休職は、企業側から通常業務を免除されますが、欠勤の場合は免除されません。
つまり、従業員の自己都合によって、出勤すべき日に休むことを「欠勤」と呼ぶのです。
休職制度は、企業が独自に設けている制度であり、適用理由は企業によって異なります。
ほとんどの企業では、以下のような理由による休職が認められています。
・傷病休職
・自己都合休職
・事故欠勤休職
・調整休職
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
傷病休職とは、社員が仕事以外で病気やケガを負い、通常業務を行うことが難しくなった場合に適用される休職のことです。
基本的には、医師からの診断書をもとに、どれくらいの療養期間が必要かを判断し、休職期間を決定していきます。
仕事が原因で病気やケガを患った場合は、労災扱いになるケースもあります。
自己都合休職とは、ボランティア活動などで仕事を休まざるを得なくなった場合などに適用される休職です。
災害復興活動や社会福祉施設でのボランティア活動などの際に適用されます。
その他、該当社員が被告人として起訴された場合の「起訴休職」についても、自己都合休職に該当します。
事故欠勤休職と聞いて、多くの方は「事故を起こしたとき(巻き込まれたとき)に適用される休職」と考えるでしょう。
ただ、事故でケガをした場合に適用されるのは「傷病休職」です。
ここでいう「事故」とは、刑事事件を起こして拘留・逮捕された場合などを指します。
その際の休職期間は、猶予期間となり、その期間中に復帰できない場合は解雇もしくは退職扱いになることが多いです。
調整休職とは、
・出向
・労働組合業務
など、その他の制度と調整をするための休職です。
出向先などで何らかの業務を行っていたとしても、企業から命じられている通常業務は行わないため、休職扱いになります。
休職について、厚生労働省WEB上で公表している「モデル就業規則」では、休職規程について次のようなサンプルを示しています。
(休職)
第 条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が〇か月を超え、なお療養を継続する必要があるため
勤務できないとき 〇年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき
必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただ
し、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせるこ
とがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難
な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。
このうち、①は傷病休職に対応し、欠勤期間や休職期間(〇の部分)を企業の実情に合わせて設定することになります。また、②は自己都合休職、事故欠勤休職、調整休職に対応します。
では次に、社員が休職したいといってきた場合の対応について、詳しく見ていきましょう。
社員が休職したいといってきたら、ひとまず休職願の提出を依頼しましょう。
その他にも必要な書類があれば、このタイミングで指示します。
社員から休職願およびその他必要書類が提出されたら、担当者がくまなくチェックして受理するかどうかの判断を行います。
病気やケガが理由となる場合は、診断書の提出を依頼してください。
診断書には、
・症状
・療養期間
などが記載されており、これらの情報が休職期間や復帰判断の基準となります。
社員が病気やケガ以外の理由で休職を希望している場合は、理由を聞いたうえで休職を認めるか否かを判断しなければなりません。
担当者個人の判断ではなく、就業規則に則って公平に判断を下しましょう。
休職中でも雇用契約は継続しているため、社会保険料や住民税の支払い義務があります。
通常は、社員の給与から天引きしていますが、休職中は給与が支給されないケースも多く、天引きができないため、どのように支払うのかを確認しておかなければなりません。
多くの企業は、
・未払い分給与からまとめて徴収する
・定期的に振り込みをしてもらう
上記いずれかの方法で対応していますので、ぜひ参考にしてみてください。
必要に応じて、傷病手当金や労災保険に関する書類対応を行います。
傷病手当金は、会社の健康保険から支払われるため、所定の手続きをしなければなりません。
また、業務中の病気やケガについては、労災保険が使用できますが、こちらも書類提出が必要です。
休職は、復帰を前提とした制度です。
そのため、休職期間中も定期的に担当者が該当社員と連絡を取り合い、状況を確認する必要があります。
ただし、社員にとって担当者からのこまめな連絡が負担になってしまうこともありますので、その時の状況を見ながら臨機応変に対応することが大切です。
また、誰が窓口になって休職中の社員と連絡を取り合うのか事前に決めておきましょう。窓口は一本化することをお勧めします。
所定の手続きが一通り終わったら、休職中の注意点を共有します。
例えば、メンタルヘルスの不調を理由に休職をしていた社員が、休職期間中に旅行に行き、その写真をSNSなどにアップしたら他の社員はどう感じるでしょうか。
「体調が悪いから休職したのでは?」
「それが許されるなら自分も休職したい」
このように、多くの社員が不信感を抱くはずです。
このようなトラブルは、会社の士気を下げる原因になるため、過ごし方の注意点やSNSの活用方法についてしっかりと説明しておきましょう。
ただし、順調に回復してきた時期から、主治医に「自分の好きなこと(趣味など)もやってみましょう」と提案されていることもありますので、当該社員に確認しましょう。
では次に、社員の休職期間中に担当者が行うべき対応について、詳しく解説していきます。
先ほども解説したように、休職は復帰を前提とした制度ですので、定期的に担当者が連絡を入れて、状況を確認する必要があります。
連絡方法については、電話ではなくメール等が多いでしょう。
連絡頻度については、休職初期は1か月に1回、状態が良くなってきたら2週間に1回というように、少しずつ増やしていくのがおすすめです。
あらかじめ取り決めた休職期間の満了日が近づいてきたら、少しずつ復帰に向けた打ち合わせを進めていきます。
ただ、場合によっては期間満了日になっても状態が回復しておらず、復帰が難しい状況に陥ってしまうケースもあるでしょう。
その際は、社員と相談しながら休職期間の延長を検討します。
休職期間満了が迫ってきても復帰の目途が立たない場合は、退職を視野に入れて話し合いを行いましょう。
では次に、社員の休職対応を行う前に覚えておくべき注意点をいくつか紹介していきます。
休職制度は、法律で義務付けられた制度ではなく、あくまでも任意の制度です。
そのため、期間中の給与支払い義務はありません。
休職期間中は一切給与を支払わない企業もありますし、初月のみ満額支給して、翌月以降は減額、もしくは支給しないという企業もあります。
給与については、企業側の方針や意向によって決められるため、事前に経営者含む役員で話し合い、就業規則に落とし込んでおきましょう。
休職対応の際は、有給対応とは違って「理由」を聞く必要があります。
ただ、必要以上の情報を聞き出すのは望ましくないため、休職対応及び復帰支援、それから安全配慮義務の履行を目的とした内容に限定しましょう。
事前に情報収集の目的と必要性を本人に伝え、承諾を得ることによってトラブルを回避しやすくなります。
休職者の情報や休職理由については、非常にセンシティブな内容ですので、情報を扱う人物を絞ることが大切です。
該当社員と、
・どのような場で情報が公開されるのか
・誰に情報を開示するのか
・どこまで情報を開示するのか
について、相談しましょう。社員を安心させられるとともに、トラブルを防ぎやすくなります。
休職制度は、離職率の低下や人材確保など、企業側にとってもメリットがある制度です。
ただ、休職者が増えてしまうと、業務が回らなくなる恐れがあります。
そこでここからは、休職者を出さないための職場づくりのポイントについて、詳しく解説していきます。
休職理由として比較的多いのが、メンタルヘルスの不調です。
これは、過酷な労働環境や人間関係などが原因になることが多いです。
各社員に適切な業務を割り振ったり、メンタルヘルス対策研修・ハラスメント対策研修を実施することにより、社員のメンタルヘルス不調を防止できるため、休職者を減らしやすくなります。
また、社内に相談窓口などを設置することで、メンタルヘルス不調の早期発見に繋げやすくなりますので、ぜひ実践してみてください。
病気やケガ、ボランティア活動などが理由となる休職は、企業側ではどうすることもできません。
ただ、メンタルヘルス不調による休職は、企業側の努力である程度減らせます。
例えば、定期的に社員にアンケートを取り、満足度をチェックすることにより、社内の問題点を見つけやすくなります。
浮かび上がった問題点を早急に解決すれば、社員の快適度や満足度が高まるため、休職率の低下にも繋げやすくなるはずです。
休職者の数を減らすためには、定期的に上司との1on1ミーティングを行うのがおすすめです。
1on1ミーティングを行うことにより、社員一人ひとりの現状を理解しやすくなり、アドバイスや解決策の提示が行えるようになるため、結果としてメンタルヘルス不調の防止及び、休職者数減少に繋げやすくなります。
そのためには、上司の傾聴力の向上や部下のタイプに合わせた関わり方が欠かせません。
以上は、社員の側から休職したいと申し入れがあった場合の流れですが、明らかに体調不良でパフォーマンスも低下しているにもかかわらず、会社側から促しても受診したり休もうとしない社員がいた場合、会社側は休職命令を発することが出来るのでしょうか。
これについては、就業規則の定めによって可能となります(たとえば、健康状態が通常業務に適さない場合に出勤停止を命じることができる旨の規定を設け、出勤停止が一定期間続くと休職命令を出せる旨の規定を設けることが考えられます)。
近年では、退職ではなく休職を選択する社員が増えています。
休職は、退職とはまた違った手続きが必要になりますので、経営者や担当者は事前に正しい知識を身につけておかなければなりません。
特に、就業規則の定めが重要となりますので、よく考えて設計すべきでしょう。
また、休職制度は企業側にとってもメリットのある制度ですが、休職者が増えると業務が回らなくなるため、休職者を減らすための取り組みについても考えておく必要があります。
今回紹介したポイントを参考にすることにより、スムーズに休職対応が行えるとともに、休職者数の減少にも繋げやすくなりますので、ぜひ参考にしてみてください。勢いに任せるのではなく、しっかりと情報収集を行ったうえで決断することをおすすめします。
メンタルリンクでは、今回の記事に関連した研修を行なっております。
詳しくは、以下をご覧ください。
【全社員向け】ストレス対処研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/stress/
【入社1~3年目向け】メンタル強化研修
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【管理職向け】ラインケア研修
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【管理職向け】本物の傾聴力研修
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【全社員向け】タイプ別コミュニケーション研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/egogram/
この記事の監修者
鳥飼康二弁護士
所属 | 中野すずらん法律事務所 |
プロフィール | ・千葉県柏市出身 ・京都大学農学部卒業、同農学研究科修了(応用生命科学) ・日本たばこ産業株式会社勤務(中央研究所) ・一橋大学法科大学院修了 ・東京弁護士会(2011年~) |
URL | https://nakano-suzuran.com/ |
株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。研修・講演は年間約155回、カウンセリングは年間のべ275人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。「怒る上司のトリセツ(時事通信社)」「週刊ダイヤモンド(2020年5月16日号)」など書籍・メディア掲載も多数。