~ハラスメントが解決し、行為者の改善につながりやすい~行為者ヒアリングのポイント

ハラスメント

はじめに

ハラスメント相談対応というと、主に被害者の話を丁寧に聴くことを学ぶ方が多いかと思います。もちろん、被害者の話の聴き方を学ぶことは、大事です。しかし、相談窓口・人事担当者に困っていることを伺うと、殆どの方が被害者対応ではなく、「行為者へのヒアリング」と言います。行為者へのヒアリングの仕方によっては、行為者が心を開いて話をしてくれます。また、語りながら反省することがあります。その結果、真実が把握し、正しい処分ができ、行為者の行動変容につながります。一方で、行為者ヒアリング・行為者面談のスキルが低いと、行為者が心を閉ざし、反発し、話がこじれてしまいます。真実も把握できず、表面的な処分で終わり、行為者が全く反省しないという結果につながってしまいます。第2、第3の被害者が出てしまうことになりかねません。そこで、今回はハラスメントが解決し、行為者の改善につながりやすい行為者ヒアリングのポイントをご紹介します。

行為者ヒアリングに向けての5つの基本的取り組み

①中立的な立場をとる

行為者が行ったことがハラスメントに該当するかどうかは、まだヒアリング時点では確定しておりません。しかし、行為者ヒアリングとなると、思い込みが入りやすいです。「絶対に許せない!」「あの人が加害者のはず」と担当者が感情的になるケースがあります。行為者であって、まだハラスメント加害者と確定している訳ではありません。特に被害者の話を確認した後に行うと、正義感が極端に出てしまいがちです。また、ヒアリング担当者と行為者の仲が良い場合は「あの人悪い人ではないから」と言ってしまうケースがあります。
一方に偏るような対応をしてしまうと、行為者との関係が作れず、真実を把握することができません。中立的な立場で偏見なくヒアリングをしましょう。

②枠組みを大切にする(ガイドライン・時間)

あなたの立場や役割、権限を理解することが大切です。また、ヒアリングから最終結論まで社内ではどのような流れで行なわれるのか確認をした上で、臨みましょう。ガイドラインに沿わない対応によって解決まで余計に時間がかかることがあります。また、相談時間は60分以内にすることをお勧めしています。あまり長時間になると集中して聴くことができません。そのため、枠組みを大切にしましょう。

③秘密を厳守する

ハラスメント行為者の秘密も守る必要があります。秘密を守ってくれるからこそ安心して話しができます。「ここだけの話だけどね・・・」と言って、ヒアリング内容を漏らしてしまうような人では担当することができません。ヒアリング担当者は、日頃から自分の言動に気を付けましょう。誰かの秘密を安易にばらしてしまう人がヒアリング担当者ですと、行為者も本音で話が出来なくなります。必ず秘密を厳守しましょう。そして、共有範囲はヒアリング開始前にあらかじめ行為者に伝えておきましょう。

④3大ハラスメントの判断基準を理解する

ハラスメントのヒアリングの目的は解決につながる内容を確認することです。その際、特に職場の3大ハラスメントの基準やポイントが頭に入っていないと、行為者に質問できません。例えば、パワーハラスメントであれば、行為者が権限を超えているような言動を行っているのか、繰り返しているのか、どの程度の期間行われているのか、人格・性格等の変えられないことについて言及しているか等、確認する必要があります。私は各企業のハラスメント防止委員会の外部委員を務めております。ヒアリング等の調査に時間のかかる企業の報告書を拝見すると、ヒアリング担当者の感覚で聞いているケースがあります。例えば、パワーハラスメントにはパワーハラスメントの基準があります。その基準に満たす行為があったのかどうか、具体的に確認する必要があります。

⑤傾聴力を身に付ける

行為者ヒアリングの失敗の多くは、導入時の関係構築が原因と思われます。ただ単に事象のみ質問しても、次々問い詰められたという感覚になりしゃべり辛くなります。行為者は悪気がなく、むしろ「叱咤激励するため」「(被害者を)鼓舞しているつもりだった」「(被害者に)この仕事を乗り越えて成長してほしかった」「私も辛かった」と気持ちを吐露することがあります。行為者の価値観や想いを語っているのに受け止めずスルーされてしまえば、「事務的」「わかってもらえない」と感じ心を閉ざしてしまいます。ヒアリング開始直後は、十分行為者の気持ちや価値観、想いに耳を傾け受け止める傾聴力が大事になります。行為者はヒアリングに呼ばれている時点で警戒心をもっています。しかし、傾聴力のある担当者に対してはだんだんと信頼をし、本音で話してくれるようになります。知識はあるが、聴く力が弱いと感じるハラスメント窓口・人事担当者に出会うことがあります。定期的に傾聴力を磨きましょう。

行為者ヒアリング時のチェックポイント

行為者ヒアリング時は、以下のチェックポイントを参考にすすめましょう。

①事前に被害者の同意を得る

②行為者を呼び出す際は、大まかな目的のみ伝える
具体的に伝えてしまうと、周囲に「私はハラスメントなんてしていないよね?」と無理やり同意を求めてしまうことがあります。また、「誰だ!私を売った奴は?!」と被害者を特定しようとします。

③原則、2名でヒアリングする
言った言わないを防ぐためです。行為者ヒアリングの場合は、空気が重くなる、話が先に進まないということがあります。2人で向き合えば、お互いがサポートし合うことができると思います。

④ヒアリング時の行為者のプライバシーは守られることを伝える

⑤行為者の言い分を最後まで聴く

⑥嘘をついてはいけないと伝える

⑦今後の流れを説明する
行為者もどのような処分になるのか、処分が見送られるのか不安を感じます。曖昧なままですと、行為者もメンタルヘルス不調になってしまうことがあります。眠れなくなり、うつ病等になることがあります。

⑧相談者への接触(報復やお詫び、誤解を解く)の禁止を伝える
「お詫びしたい」「誤解があるから伝えたい」と言って相談者と接触しようとする人がいます。

※相談者が匿名の場合※
以下の行為も相手を威圧する行為ですので、禁止であると伝えましょう。
・職場に戻って、誰が訴えたのか探りを入れる。
・部署全体に対して会議等で「私はハラスメントなんてしていないよね」と念を押す。

処分通達時のチェックポイント

よく「処分だけ一方的に言われた」「明らかに事実と違う。調べればすぐわかることなのに弁明させてくれなかった」「どんな行為がいけなかったのか全くわからない」という声を聞きます。そうなってしまうと、行為者が自覚できず再発防止につながりません。第2・第3の被害者を出しかねませんので、行為者をハラスメント加害者として懲戒処分をする場合、通達時に以下のことを抑えておきましょう。

①具体的にどんな言動がハラスメントにあたるのか、理由と共に伝える。

処分内容のみ伝えるということは絶対に避けましょう。受け止められなくなります。行為者が受け止めきれない場合、メンタルヘルス不調に陥ることもあります。何よりも再発防止につながらないことがあります。また、行為者が納得いかず、訴訟リスクも高まります。

②行為者が日頃できていること、職場に貢献していると思われることを十分伝える。

行為者の日頃の活動で承認できることは伝えましょう。「商品トラブルがあった際に、すぐに現地に行ってくれた。その行動力は日頃から感謝している」「新規案件についても嫌な顔せず、引き受ける姿勢は大切だと思っている」等、具体的に伝えてください。

③叱るべきことは叱る。

②で認めることは認めつつも、ハラスメントが起きていることについても具体的に叱りましょう。例えば、「仕事中、部下に大声で怒鳴れば委縮してしまう。周りも恐怖を感じて、●●さんに報告に行きづらくなっている。これでは健康を害してしまう。このようなコミュニケーションを取っていては、成果も出ない。認められない行為である。二度と行わないでください」と具体的に指摘し改善を求めましょう。

④未来に向けて期待も伝える。

ハラスメントを二度と行いわないことを約束させたうえで、期待も伝えましょう。例えば、「今回のことを十分に反省し、改善した上で今度は周りの健康を大事にした働き方ができるように期待している」のように、反省を促しつつ期待を伝えると、改善しようという気持ちになりやすいと思います。未来に焦点を当てるという行為は期待を表します。自らの行為を心から反省してもらうためには必要なことです。

⑤改めて被害者への接触(報復やお詫び、誤解を解く)の禁止を伝える。

⑥弁明や反省を述べる機会を作る。

ハラスメント相談を受けた担当者も、行為者のヒアリングを行った担当者も間違うことがあります。重大な事実で誤りが起きた状態で、一方的に懲戒処分を伝えると会社側の対応の問題がクローズアップしてしまうことがあります。弁明の機会がなければ、行為者は外部機関に訴えるしかありません。その結果、メディア等で取り上げられ、最終的に企業側がお詫びをしなければいけないことになったケースもあります。また、処分をそのまま受け入れる、事実を認める場合も反省の弁を述べる機会を作りましょう。

※弁明によっては、もう一度ハラスメント防止委員会等を開き、事実確認をやり直す必要があるかもしれません。また、処分内容を見直す必要が発生することがあります。決めた処分なので文句言わず受け容れろという姿勢はトラブルのもとです。ハラスメント相談時のフォローに、再調査・再検討を申し出ることができる流れも入れておきましょう。

⑦加害者の行動変容につながる個人レッスンの機会を作る。

ハラスメントはやってはいけないが、ではどのようなコミュニケーションを取ればいいのかという疑問が湧いてきます。そのため、具体的なスキルを学べるような機会を作ってください。例えば、大声で怒鳴ることによって部下を動かし、部下を育成していた人に対して「それではダメですよ」とだけでは、行動変容につながりません。叱り方やコミュニケーションのトレーニングをする機会が必要です。そもそも、相手を理解していないから、すぐにイライラしているのかもしれません。その場合は、部下や後輩のことを理解できるようなスキルである傾聴が必要となります。感情コントロールが苦手なのであれば、感情コントロールを身に付けることができるメニューを用意してあげましょう。

<参考>
弊社でも加害者・行為者の行動変容のためのメニューに適したものがあります。⑦で上げたものは、以下をご覧いただけると参考になると思います。

叱り方・感情コントロール
https://mental-link.co.jp/service/training/power_harrasment_prevention/

心理診断を使ったコミュニケーション
https://mental-link.co.jp/service/training/egogram/

傾聴
https://mental-link.co.jp/service/training/listening/

まとめ

これまでの内容で、ハラスメント行為者へのヒアリングのポイント・大切さを理解していただけたのではないでしょうか。行為者も事実認定がされるまでは、加害者ではありません。行為者にも人権があります。ハラスメント行為者対応は、相談窓口・人事担当者が感情的になりやすいです。役員を含めた、責任者も感情的に判断してしまうリスクがあります。事実を正確に把握するためには、ヒアリング担当者の知識とヒアリング能力を高める必要があります。そして、処分を下すだけでは再発防止になりません。具体的にどんな言動を控えてもらいたいのか、どのように改善してほしいのか伝えましょう。それが、被害者も加害者も生まずハラスメントのない職場づくり、活き活きと働き生産性の高い職場づくりにつながります。

<参考>
ハラスメント対策研修、ハラスメント相談対応研修、行為者(加害者)カウンセリングについては以下をご覧いただけると参考になると思います。

セクハラ・マタハラ対策研修
https://mental-link.co.jp/service/training/harrasment_measure/

パワハラ対策研修
https://mental-link.co.jp/service/training/power_harrasment_measure/

雑誌「人事の地図」(2023年7月号)にて、被害者や第三者からの相談を受ける際のポイントを事例と共に紹介した記事が掲載されました。ご興味がある方は以下のURLよりご覧ください。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/hrmap/c202307.html

この記事を書いた人

公認心理師/シニア産業カウンセラー

宮本剛志

株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。研修・講演は年間約155回、カウンセリングは年間のべ275人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。「怒る上司のトリセツ(時事通信社)」「週刊ダイヤモンド(2020年5月16日号)」など書籍・メディア掲載も多数。

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