2025年09月06日
ハラスメント
近年、職場におけるハラスメントは実に多様化しています。
そして、業界ごとに特有のハラスメント問題が顕在化してきています。
ここでは特に顕著な5つの業界に焦点を当て、それぞれのハラスメントの現状と背景、そして具体的な対策について紹介していきます。
目次
近年、飲食・接客業界では"カスタマーハラスメント(カスハラ)"が、深刻な社会問題となっています。
厚生労働省の調査「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間にカスハラの相談があった企業は10.8%に上り、パワハラに次いで多い結果となっています。
2025年6月にカスハラ対策を全企業義務化する法案が成立しましたので、益々注目されるはずです。
背景には、飲食・接客業界を取り巻く社会的な変化があります。
消費者の顧客対応の質を求める動きが加速し、従業員に無理難題や過剰な要求をするケースが増加しています。
また、匿名での発信が可能なSNSの普及により、従業員への過度な批判や脅迫などが拡散されやすくなっています。
さらに、新型コロナウイルスの影響で社会全体のストレスが高まり、顧客の不満や怒りの矛先が従業員に向けられる傾向がありました。
企業によっては、すでに以下のような対策が始まっています。
理不尽なカスハラには、企業として毅然とした態度で対応していくのが良いでしょう。
医療・介護の現場では、患者やその家族からのカスハラ(過剰な要求や暴言)が問題となっており、従業員の精神的負担が増しています。
また、日本看護協会の調査では、看護職員が受けたハラスメントの内容として、「精神的な攻撃」24.9%、「身体的な攻撃」17.9%が報告されています。
引用:日本看護協会|看護現場におけるハラスメント防止に向けた日本看護協会の取組み
さらに、厚生労働省の「令和6年版「過労死等防止対策白書」によれば、職場のパワーハラスメントが原因で精神障害となる事案の労災認定件数が増加傾向にあり、現場の過酷さが浮き彫りになっています。
その背景には、サービスに対する期待の高まりと、業界独自の働き方の問題があります。
医療・介護の現場は、命や生活に直結するサービスであるがゆえに、些細なミスや待ち時間などにも強い不満が向けられ、それがカスハラに発展するケースが見られます。
また、慢性的な人手不足に加え限られた人員で多くの業務をこなす必要性から、従業員一人ひとりの負担が増し、対応が難しくなっている現状です。
そして、従業員がイライラして、パワハラをしてしまうケースも目立ちます。
長時間労働や高い責任感が求められる中で、精神的・肉体的な負担が増えストレスが蓄積しやすい環境となり、カスハラや職場内でのパワハラにつながるリスクを高めています。
すでに、以下のような対策を行っている病院や団体があります。
従業員のメンタルサポートと、カスハラ・パワハラへの迅速かつ適切な対応が求められます。
建設・製造業界では、依然としてパワーハラスメント(パワハラ)の問題が根強く残っていると言われています。
厳しい上下関係や過度な叱責が常態化している状況も、少なくありません。
こうした職場環境は、若手の定着率の低下やメンタルヘルス不調の原因となり、業界全体の人材不足にもつながっています。
建築・製造業界でパワハラが横行する背景は、この業界の組織構造の特色にあります。
現場単位での人間関係が中心で外部との交流が少ない上、年功序列や上下関係が強く、「昔はもっと厳しかった」といった過去の慣習に基づいて若手への指導が感情的になってしまうことがあります。
また、指導方法が個人の裁量に任されていることで大きなばらつきが生じ、結果としてパワハラにつながるリスクがあります。
さらに、高所作業や重機の操作など命の危険が伴う作業が多いため、指導者側が「事故を防ぐため」として過剰な叱責や威圧的な態度をとってしまうことがあり、それがパワハラと受け取られるケースも見られます。
根強いパワハラ気質の職場から脱却するには、以下のような対策が効果的です。
パワハラの根絶を目指すには、業界全体の体質改善が急務と言えるでしょう。
学校・教育現場におけるハラスメント問題は、年々深刻さを増しています。
校長や教頭などの管理職によるパワーハラスメント(パワハラ)、また教員間あるいは教員による生徒へのセクシュアルハラスメント(セクハラ)など、二重構造的にハラスメントが発生するケースが目立っています。
こうしたハラスメントは教職員の精神的ストレスやモチベーション低下を招き、離職や休職の一因にもなっています。
教員は1日の多くを校内で過ごし、同じメンバーと密接に関わり合います。
この関係性の濃さゆえ、たとえ問題が起きても「波風を立てないように」と見て見ぬふりをされる場合も多く、ハラスメントの隠蔽や長期化を招いています。
また、授業、部活動、保護者対応、校務分掌など、多忙を極める教職員は疲弊しやすく、ストレスが溜まることで精神的余裕を失った教職員による感情的な対応や攻撃的な言動に走るケースが見受けられます。
さらに、管理職の発言力が非常に強く、現場の教員が意見を述べたり指導に疑問を呈したりすることが難しい風土が、パワハラを助長している可能性があります。
業界の特色に合わせたハラスメント対策を講じていく必要があります。
メンタルのケアも優先しつつ、閉鎖的な環境をいかに解消するかがカギとなります。
リモートワークの普及や成果主義の加速により、IT・Web業界では新たな形のハラスメントが深刻化しています。
特に、あまり顕在化しにくい精神的なハラスメント(上司からの過度な監視、曖昧な指示、孤立した環境によるメンタルな不調など)が問題視されており、従業員のパフォーマンスや健康に深刻な影響を及ぼしています。
他業界に先駆けてリモートワークが定着し、働き方が大きく変化した一方で、「物理的に一緒に働かない」ことが新たな問題を生むことがあります。
オンライン会議では意見が出しにくく、周囲からのフィードバックも乏しくなりがちで、「自分は評価されていないのでは」と感じてメンタル不調に陥る人も見られます。
在宅勤務によって同僚との日常的なコミュニケーションが減少し、孤独感や疎外感を抱える人も少なくありません。
また、この業界では成果が重視される傾向が強く、定量的な数字で評価されることが多くあります。
明確な指標がなければ、努力が認識されず、モチベーション低下や不信感を生む要因にもなりかねません。
「働いても働いても評価されない」といった心理的負担が積み重なることで、精神的苦痛につながる可能性があるのです。
IT・Web業界のハラスメント解決策は、以下の通りです。
各企業の働き方にあわせたハラスメント対策が、必須となってきます。
各業界には、それぞれの業務内容や職場環境・文化に起因する独自の課題が存在しており、画一的な対応では根本的な解決には至りません。
だからこそ、業界の特性を正しく理解し、それに応じた対策をしていく必要があります。
防止の第一歩は、職場全体で「見て見ぬふりをしない」姿勢を持ち、早期発見と早期対応を可能にする仕組みを整えることです。
そして何より、すべての従業員が安心して働ける職場をつくるためには、組織として明確な方針と教育体制を早急に整備し、継続的に職場環境を見直していく姿勢が不可欠です。
ハラスメントは当事者の尊厳を損なうだけでなく、職場全体の信頼関係や生産性にも大きな影響を及ぼします。
今後も変化し続ける社会において、ハラスメントのない職場づくりは、企業や団体の信頼と持続性を支える重要なテーマとなっていくでしょう。
メンタルリンクでは、今回の記事に関連した研修を行なっております。
詳しくは、以下をご覧ください。
【経営者向け】無自覚なハラスメント防止研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/unconscious-harassment/
【管理職向け】パワハラ対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/power_harassment_prevention_new/
【全社員向け】パワハラ対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/power_harrasment_measure/
【管理職向け】カスタマーハラスメント(BtoB型)対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/customer_harassment/
【全社員向け】セクハラ・マタハラ対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/harrasment_measure/
【相談員向け】ハラスメント相談対応研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/harrasment_consultation_response/
パワハラ防止のための感情コントロール研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/power_harrasment_prevention/
株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。 研修・講演は年間約200回、カウンセリングは年間のべ400人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社)『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)など書籍・メディア掲載も多数。