2025年03月23日
ハラスメント
現代の日本では、子育てへの取り組み方が変わってきています。
かつては、男性が稼いで女性が家庭を守る(育児をする)というスタイルが一般的でしたが、現在では夫婦で協力して育児に取り組むというスタイルが主流になりつつあります。
このような時代背景によって登場したのが「パタニティハラスメント」です。
今回は、パタニティハラスメントの定義や具体例、すぐにできる防止策について詳しく解説していきます。
目次
パタニティハラスメント、通称「パタハラ」は、男性労働者が育児休業や育児参加を希望・取得する際のいじめ・嫌がらせのことです。
以下、パタハラの定義や注目されている理由、法的責任やマタニティハラスメント(マタハラ)との違いについて詳しく見ていきましょう。
男性労働者が育児のために育児休業や時短勤務を取得しようとした際、または取得した後に、上司や同僚から嫌がらせや不利益な扱いを受けることを指します。
育児・介護休業法では、育児休業や時短勤務を理由とする不利益な取扱いを禁止する規定があるため(第10条・第16条など)、法令違反とならないよう注意が必要です。
パタハラは、広くいえば「パワハラ」の一種であり、パワハラと同様に悪質な場合は法的に違法と評価されることもあります。
特に、古い価値観や風土が残る職場で発生しやすいため、事前にしっかりと対策をしておかなければなりません。
パタハラが注目されている理由はいくつかありますが、その1つとして「子育てに関する社会の価値観が変わってきている」ということが挙げられます。
冒頭でも解説したように、これまでは男性が働き、女性が育児や家事を行うというのが一般的でした。
しかし、現代では男女平等という考え方が浸透しつつあり、男性の育児参加率が向上しています。
このようなことから、育児休暇を取得あるいは希望する男性社員が増え、結果としてパタハラが発生しやすくなっているのです。
2020年に育児・介護休業法と男女雇用機会均等法が改正され、以下5つの項目が全ての企業に義務付けられました(中小企業は2022年)。
・方針の明確化およびその周知・啓発をすること
・相談に応じるための体制を整備すること
・ハラスメント発生後に迅速かつ適切な対応をすること
・ハラスメントの要因を取り除くための措置を行うこと
・併せて講ずべき措置を行うこと
上記の義務を怠った場合、厚生労働大臣や都道府県労働局長から「助言・指導・勧告」などの行政指導が行われることがあります(育児・介護休業法第56条など)。
それでも改善が見られない場合、企業名が公表される可能性があります(同法第56条の2など)。
また、行政側の調査に対して虚偽の報告をしたり、報告を拒否した場合には「20万円以下の過料」が科されることがあります(同法第66条など)。
さらに、ハラスメント防止措置を講じなかった場合や、ハラスメントが発生し企業が適切な対応を怠った場合には、企業側は使用者責任(民法第715条1項)あるいは安全配慮義務違反(労働契約法第5条)として、被害を受けた従業員から損害賠償請求を受ける可能性もあります。
パタハラと混同されやすいハラスメントに、マタハラがあります。
これは、マタニティハラスメントの略称です。マタニティハラスメントとは、妊娠・出産及び育児等をする人に対する、職場における不利益な扱いをするいじめ・嫌がらせのことを指します。
つまり、パタニティハラスメントは、マタニティハラスメントの一部と言えます。
また、マタハラは主に女性が被害者になることが多いのですが、男性が被害者になることもあるため、パタハラという言葉が生まれたと言えます。
では次に、パタニティハラスメントの具体的な事例について詳しく見ていきましょう。
育休を取得する男性社員に対する以下のような発言・行動はパタハラに該当する可能性があります。
(特に上司にあたる立場の方は要注意です。)
【代表的なパタハラ発言・行動】
「男なのに育休を取るなんてありえない」
「男性社員に育休を取られると会社が迷惑する」
「仕事より子どもを優先されては迷惑だから、いっそのことやめてくれ」
「テレワークするといいながらどうせサボって子どもの面倒見るんだろ」
育休を取得することを理由に、不当な扱いをした場合もパタハラとみなされる可能性があります。
【不当な扱いの具体例】
・育休取得を理由に減給や降格処分を科す
・育休申請を認めない
・育休取得を理由に仕事を一切回さない
職場でパタニティハラスメントが起こってしまう原因として考えられることは、主に以下の2つです。
・職場全体のジェンダー意識が欠如している
・ハラスメントに関する周知や教育が足りていない
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
新たな価値観や考え方に対応しきれていない企業が多いことが、パタハラが起こる最大の原因といえます。
男性:仕事をする
女性:家事や育児をする
といった考えが根強く残っている職場は、自ずとパタハラ発生率が高くなります。
現代は性別による役割が取り払われ、男女平等やジェンダーレスの考えが広がってきており、企業全体としてこのような価値観・考え方を柔軟に取り入れていくことが求められます。
自身のジェンダーバイアスで無自覚にパタハラ加害者にならないように気をつけましょう。
経営層がパタハラをはじめとするハラスメントについて深く理解していたとしても、従業員の理解度が深まっていなければ意味がありません。
企業全体のハラスメント理解を深めるには、定期的に研修や講習を行うことが大切です。
これらの対策を怠ると、間違った価値観や風土が広まりやすくなり、結果としてパタハラが起こりやすくなります。
パタハラを未然に防ぎ、クリーンな職場を作り上げるためには、企業が様々な対策を講じる必要があります。
パタハラ対策として特におすすめなのは、以下5つの対策です。
1.男性に育休制度の利用を促進する
2.業務の進め方や体制を見直す
3.ハラスメント講習・研修を行う
4.相談窓口を設置する
5.育休に関する助成金を得る
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
男性従業員から「取りづらい雰囲気がある」「人が足りないので申請しづらい」「男性従業員が育休を取ると、あの人は転職を考えているはずという噂が流れる」という声を聞きます。
女性だけでなく男性従業員が育休を取りやすくなるような職場環境づくり、声かが重要です。男性従業員の子育てを支援するような姿勢の企業ではなければ、人が集まらなくなってしまいます。
近年では、男性の育休取得を「義務化」している企業も増えてきていますので、ぜひ取り入れてみてください。
男性の育休取得を見越して、業務の進め方や体制を見直すことによって、人員の欠如による業務効率や生産性の低下を防げます。
「従業員が1人でも欠けると仕事が回らなくなる」
といった状態に陥っている企業は、育休を取得しにくい雰囲気が社内全体に広がっていたり、無意識のうちに上司がパタハラに該当する言動や行動をとってしまったりする可能性が高いため、早急に業務の進め方や体制を見直しましょう。
時代の変化に伴い、昨今では様々なハラスメントが問題視されています。
パタハラなど、比較的新しいハラスメントも複数存在するため、職場全体で理解を深めていかなければなりません。
ハラスメントに対する正しい知識や考え方を周知する方法としておすすめなのが、講習や研修です。
経営層や担当者が講師となり、ハラスメントに対する考え方や防止策を全従業員に周知することにより、パタハラをはじめとするあらゆるハラスメントを防ぎやすくなります。
また、育休を取得した男性従業員に体験談を語ってもらうことも有効です。
パタハラの相談窓口を設置することにより、現状の把握やトラブルの早期対応が行えるようになります。
厚生労働省が行った「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査」では、男性の約4人に1人が育休の際にハラスメント(パタハラ)を受けたと回答しています。
さらに、ハラスメント(パタハラ)を受けたあとどのような行動を取ったかというアンケートでは、全体の15%が「何もしなかった」と回答しているのです。
職場に相談窓口があれば、パタハラを受けた、あるいは「育休を取得したいが言い出せない」といった社員が気軽に相談できるようになるため、心理的安全性の向上にも繋げやすくなります。
厚生労働省は、男性従業員の育休取得を応援し、企業の負担を軽減するために「助成金」を用意しています。
これは「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」と呼ばれる制度であり、育休取得をさせた企業や取得実績が向上した企業が受け取れる助成金です。
(参考:厚生労働省「令和5年度 両立支援等助成金」)
助成金をうまく活用して新たな人員を確保したり、ツールを導入したりすることによって、人手不足による業務効率低下を防げるようになります。
(注意点:助成金の申請には、育児休業取得の実績だけでなく、職場環境の整備や就業規則の改定など、一定の要件を満たす必要があります。また、申請手続きや要件については、最新の情報を確認し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。)
企業として必要な対策を講じていたとしても、100%パタハラが起こらないとはいい切れません。
万が一職場でパタハラが起こってしまった場合は、以下のポイントを参考にしながら適切に対応していきましょう。
1:被害者の気持ちを受け止める(共感)
2:事実確認
3:被害者のメンタルケア
4:(ハラスメント認定した場合)加害者の指導及び処分
5:再発防止措置
パタハラを防ぐための取り組みを考えることも大事ですが、パタハラが起こってしまった場合の対応を検討することも重要ですので、あらゆるシーンを想定して対応方法を考えていきましょう。
パタニティハラスメントは、男性労働者が育児休業や育児参加を希望・取得する際のいじめ・嫌がらせのことです。
パタハラは、古い価値観や風土、ジェンダーバイアスが根強く残っている企業で発生しやすいハラスメントです。早急に対策していかなければなりません。
職場でパタハラが横行すると、従業員の業務効率や生産性が落ちたり、損害賠償問題に発展する可能性もありますので注意が必要です。
今後は、さらに男性の育休取得率が高まっていくことが予想されますので、今回紹介したことを参考にしながら、少しずつパタハラ対策を進めていきましょう。
メンタルリンクでは、今回の記事に関連した研修を行なっております。
詳しくは、以下をご覧ください。
【経営者向け】無自覚なハラスメント防止研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/unconscious-harassment/
※ハラスメントを防ぐための実践的な対策を学ぶことができます。
【全社員向け】セクハラ・マタハラ対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/harrasment_measure/
【全社員向け】パワハラ対策研修
https://mental-link.co.jp/wp/service/training/power_harrasment_measure/
この記事の監修者
鳥飼康二弁護士
所属 | 中野すずらん法律事務所 |
プロフィール | ・千葉県柏市出身 ・京都大学農学部卒業、同農学研究科修了(応用生命科学) ・日本たばこ産業株式会社勤務(中央研究所) ・一橋大学法科大学院修了 ・東京弁護士会(2011年~) |
URL | https://nakano-suzuran.com/ |
株式会社メンタル・リンク 代表取締役 教育関係の企業(ベネッセグループ)で事業所や相談室の責任者を経験。その後、カウンセラー・研修講師として独立。研修・講演は年間約155回、カウンセリングは年間のべ275人。 複数の組織でハラスメント防止委員会の委員を務めるなど社外でも活動している。「怒る上司のトリセツ(時事通信社)」「週刊ダイヤモンド(2020年5月16日号)」など書籍・メディア掲載も多数。